「兄弟」

週間掲載　短編小説　

「兄弟」


ある所に双子の兄弟が居た、

兄の名前は「善郎(よしろう)」と言い

弟の名前は「幾朗(いくろう)」と言った


二人の容姿は全く変わらず

同じような背丈で、全く同じような声。


だが、二人の性格は大違いだった

兄の善郎は、社交的で友人も多かったが

弟の幾朗は友人も居らず、暗い性格だった




幾朗は考えた、自分も兄のように

社交的な明るい人物になりたいと



そして、なるべく兄の真似をするようになった

兄が行った学校へ行き

兄がよく行く食堂へ行き

兄が通うスポーツクラブへ行った

だが、どれも上手く行かなかった


善郎はどこでも人の中心に立つ男だったが

幾朗は人と話す事さえしなかった




そして、兄が成人となった時

家族から別居したのを見て

幾朗もアパートの２階の一室を借り

別居した


だが、それ以後

幾朗は兄の真似をできなくなった


兄を見かける機会が減ったからだ




そして、幾朗は友人も居らず

家族からも離れて暮らしていくうち


誰からも気にされなくなっていた





幾朗は考えた

「兄と双子で、姿形は変わらないのに

　何故、こうも性格も人生も違うのだろうか」



友人も相談相手も居ない

寂しい人生を送るうちに

幾朗はある結論に達した


「兄が自分の幸福を奪った」


その考えは、エスカレートして行き

幾朗は兄を恨み

復讐さえ誓うようになって行った




そんなある日

兄の善郎が幾朗の家に訪ねて来た


善郎は独立して会社を興そうと

金を集めていた

そこで、弟の幾朗に金を借りようと

やってきたのだった





幾朗はそれを聞いて

復讐するのに、丁度良いと思い

なるべく兄を苦しめるように金を貸そう

そう考えた


そこで、幾朗は

高額な利子をつけて返すなら

金を貸してやると言った



善郎は怒った

何故、弟に金を借りるのに

そのような条件が必要なのかと




善郎が怒って帰ろうとするのを見て

幾朗は、このまま帰られたのでは

復讐にも何もならない

そう考え、慌てて引き止めようとした


善郎は部屋を出てアパートの階段を下り

既に帰ろうとしていた


そこを無理矢理、幾朗は止めようと

善郎の肩に手をかけようとした



だが、その勢いが余って

幾朗は善郎の背中を押してしまったのだった


善郎は、バランスを崩し、階段から落ちた

物が落ちる、鈍い音が響いた





幾朗はあわて、恐れた

「殺してしまったか？」

幾朗は復讐はしたかったが

犯罪者として捕まりたくは無かった


幾朗はどうすれば良いか考えた

まずは死体をどうにかしようと考えた

そこで、下に落ちた死体を担いで

自分の部屋に運んだ


死体を処理するのに

外で処理はできないからだ



「死体を黒い大きな袋の中に

　入れて、車のトランクに入れて

　近くの山の中で捨てよう」


そう、幾朗は考えた






そして、袋の中に死体をいれようと

用意を始めた･･･




その時だった



善郎の携帯が鳴った




幾朗は焦り、汗が流れた

携帯が鳴り響く

幾朗に警告するように






幾朗は一息つき

落ち着いて、その携帯に出た



相手の声が聞こえる

「善郎さんですか？」



幾朗は答える

「はい、そうですが？」



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわり